康駿視点    第8回(2011.12.8.) ー 箱根駅伝を読む ー      

 
 「正月は冥土の旅の一里塚、めでたくもありめでたくもなし」という句は一休禅師のものですが、箱根駅伝を長い期間“生”で観戦している私としては一休禅師の言うところの正月を箱根駅伝に重ねる心境になってきています。
 第87回大会(今年の正月)は注目されていた早稲田大学が戦前の予想通り優勝しました。しかし、そのことはすでに忘れたかのごとく、出雲では東洋大学が、全日本では駒澤大学が優勝しました。その間、日本大学の予選会落選や順天堂大学の復活、学連選抜への期待等、心はすでに来年1月の2日〜3日に向いていることと思います。
 そこで、まもなくやってくる第88回箱根駅伝を楽しむために、私の読んだ箱根駅伝関係の書籍から何冊かの本を紹介しましょう。
 まだ、本番までに25日あります。読む気にさえなれば1〜2冊は行けるでしょう。
 

 ◆ まずは、箱根駅伝の歴史がすべてがわかる優れもの、ずばり「箱根駅伝」(ベースボールマガジン社)です。熱き思いを胸に襷がつないだ八十有余年の資料集です。
 とにかく歴史がびっしりと詰まっています。知っている選手を探してみてください。学連のホームページで箱根駅伝を知るのもよいのですが、歴史はページをめくりながら紐解いて行くのがよいですね。



 続いて、小説です。
 ◆ 箱根駅伝各区間で演じられる激走のドラマと、犯人側との攻防がシンクロする、一気読み間違いなしの感涙サスペンス、箱根駅伝が電波ジャックされたという設定のフィクション「強奪・箱根駅伝」(安東能明・新潮社)です。
 実在の大学が実名で登場。表紙は早稲田、主役は神奈川、ちなみに作者は明治大学OBです。
 

 ◆ 故障で一度は走ることをあきらめた清瀬灰二と長距離選手として実力を持ちながら、ある事件により走ることを断念せざるを得なくなった蔵原走。二人が出会うことでしまいこんでいた思いをよみがえらせ、無名の寛政大学で箱根駅伝出場を目指す。二人が暮らすアパートの素人ばかりの部員とともに実現不可能に思える夢を追い求めていきます。「風が強く吹いている」(三浦しおん・徒然書店)という題名の小説ですが、映画化もされたので両方ご覧になられた方も多いと思います。
 

 ◆ 誰のために、何を背負って襷をつなぐのか。母校代表としての箱根駅伝を逃した、敗れた強者集団が作るチーム学連選抜が挑む二日間、217.9キロの苦闘と激走の駅伝小説「チーム」(堂場瞬一・実業の日本社)です。
 近いうち学連選抜チームは編成しないとの情報もありますので、今のうちに文字で楽しんでおきましょう。
 どうせ学連選抜が廃止になるなら、一発ドカンと優勝花火でも打ち上げてからがよいですね。そうすると、この小説が予告小説…?
 

 ◆ その他にも、箱根駅伝小説でありながら主人公が箱根駅伝を走らない「ラン!ラン!ラン!」(桂望実・文春文庫)などもおもしろかった記憶がありますが、詳細は覚えていないのが残念です。
 

 ◆ 特筆ものとしては、自ら早稲田大学時代に箱根駅伝を二度走った経験を持つ黒木亮の自伝的小説「冬の喝采」(講談社)がありますが、当時の早稲田を知っている人にとってはこらえられない中身です。
  個人的な話で申し訳ありませんが、私にとって箱根駅伝は故・中村清先生を抜きには語れません。前述の黒木氏は若干中村先生を否定的に扱っていますが、同時代の四年連続早稲田のアンカーを走った、現・時事通信社の滝川氏は肯定的に見ています。
 

 そこで中村先生をテーマにした本も紹介します。

 ◆ 私を中村先生のもとに連れて行ってくれたのが「中村清と瀬古俊彦の激走」(日本文化出版)の著者・別所功氏(ちなみに、この本の写真は立木義浩撮影で構成)でした。
 氏は、「果てしない闘走を続ける師弟の間にはまぎれもない愛が存在する。孤独な長距離ランナーのハートの内にはあまりにも人間的なぶつかりあいが湧出してくるのだ。常に。人間として素直に生き、世界を制す夢を持つ二人の間に愛がなくして、何故その夢が成し遂げられるというのか…。」といった、現役選手と指導者が忘れてはならないような言葉が胸に響きます。
 ゴールに向かいひた走る師弟の生き様を描くノンフィクションです。

  
 ◆ 中村先生が陸上競技を志すきっかけを作った方は佐野の歯科医師で当時の千五百メートルの日本記録保持者・土屋甲子雄先輩です。
 また、中村先生は東京オリンピック前に、実業団の名門東京急行で監督をしていましたが、そのころの門下生に、佐野高校から東洋大学へと進み、その後メキメキと力をつけ、その結果中村先生に見出され、日本記録保持者として東京オリンピック3000m障害に出場した奥澤善二先輩がいました。
 これは余談ですが、中村先生の現役時代には大沢龍雄先輩(佐野高校〜日本大学、日本大学時代に3000m障害で日本記録を樹立)が頭角を現してきたころです。ひょっとすると大澤先輩も一緒に走ったり、アドバイスをいただいていたかもしれません。
 この本では中村先生の出生から、現役時代、指導者時代について隠すことなく書かれています。私は生まれも育ちも佐野なので知っている人の名前が登場するたびに自分のことのように感じ、本そのものに親近感がわきました。
 その本とは「マラソンは芸術です 瀬古利彦を育てた男の真実」(木村幸治・新潮社)という題名です。
 

 ◆ <意欲> すべての原点はやる気。やる気を持続させることは思いのほか難しい。意外な落とし穴があるからだ。
   <感謝> 生かされている己を知る。誰でもどこかで誰かに支えられれて生きている。それを一人で生きてきたかの如く錯覚したときに迷路に迷い込む。
   <師弟> 適切な助言が人を生きかえさせる。人は瞬時にして変化しうる。師の根気と熱意、そして方法が、秘められていた思いもよらぬ能力を目覚めさせる。
 その他の章には、<準備><勝負><試練>の六章から成る、生前本人が書き下ろした「見つける 育てる 生かす」(二見書房)という本があります。
 普段私は比較的本を大切にするタイプなのですが、この本だけは自分の主義に反し、朱線を引き、感想を殴り書きしてあります。


 「スポーツは、やって楽しみ、観て楽しみ、支えて楽しむ」などといった楽しみ方がありますが、ここに「読んで楽しみ、調べて楽しむ」を付け加えることが必要だと思えてきました。

 
 ただひたすら箱根駅伝関係書籍を読むという行為が「たかが箱根駅伝、されど箱根駅伝」を実感することでしょう。
 昨夜、第1回大会からの出場選手を眺めていたら、なんと大澤先輩が日本大学の選手として走った2年後には岡島先生が高等師範の代表として走っていることに気づかされました。
 さらには、私がジープに乗せていただいた大会が50回の記念大会であったことも忘却の彼方になりかけていました。
 歴史の凄さ、素晴らしさを再認識しました。

 
 さてさて、今年はどのようなドラマが待っているのでしょうか。
 
 
 箱根駅伝は総大な絵巻物だ。
 私は盃を片手に指定席に腰をおろす。
 1月2日午前8時、絵巻物は一気に開かれる。
 お屠蘇とおせちを楽しみながら、ただただ私は観て感じ続ける。
 時には走者と交差しながら、時には走者と平行移動しながら。
 あるいはこれから走る走者を思い描きながら。
 私は12時間もの間、絵巻物を眺め続ける。
 絵巻物の一巻は100kmを超す、それが二巻。
 1月3日昼過ぎに絵巻物はすべて開かれる。
 二巻とも巻き戻したころ、第89回大会がやってくる。
 
 
 干支が一回りすれば100回記念大会。
 その大会はKさんの還暦記念ツアーと名をうつのであろうか?
 やはり、箱根は冥土の旅の一里塚なんでしょうかね。


  
  ・「康駿視点」バックナンバー 
     第1回ー人間関係ー(H23.05.08)
     第2回ー速さと強さー(H23.06.08)
     第3回ー岡島宣八先生逝くー(H23.07.08)
     第4回ーインターハイ序破急ー(H23.08.08)
     第5回ーインターハイそして世界選手権終了ー(H23.09.08)
     第6回ー 氣づき ー(H23.10.08)
     第7回ー 姿勢 ー(H23.11.08)

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