康駿視点    第9回(2012.1.8.) ー 生きる知恵 ー      

 
 あけましておめでとうございます。


 私はと言えば、ここ数年同じように、1日はゴルフの初打ち、2〜3日は箱根、といったパターンが定着している。ここ十数年何ら変わりのない正月である。
 ついでに言えば、毎年末はどこかで合宿している。これまで、そんなことに抵抗なく過ごしてきている。ただし、昨年末は全国高校駅伝の激励に京都に行ったことが加わった。
 
 しかし、来年からは違う。
 仮に同じ年末年始の送り方をしたとしても、全く心境は違っているはずだ。
 事実、私の内面ではその準備をしようと変化がおきていることを、自分自身感じ取っている。
 
 人間は歳とともに1年が過ぎるのがはやく感じられる、らしい。
 私もあと3か月で教員としての卒業を迎えるが、若いころに比べると、一年がはやく通り過ぎる感は否めない。
 もっとも毎年一緒に箱根に行っている、まだ40代のK氏でさえ、暮れに「もう箱根ですか」と言ったくらいだから、世の中が慌て過ぎているのかもしれない。先月も書いたが、そんな彼でさえ、12年後の箱根駅伝100回記念大会の時は還暦だということをまだ実感できないであろう。そんなものだ。人生というものは。
 
 人は時間の経過とともに多くの方々にお世話になりながら学習し、経験を積み、その結果、成長し、賢くなっていくのが当然なはずであるが、学習したことや経験したことを各自の「生様」として働かせるようになることは意外に難しいようだ。
 
 楽しかったことは覚えているし、つらく悲しかったことも覚えている。しかし、その中間的なことは脳に深く刻まれないのか、受身的な学習の繰り返しの結果では「知の連鎖」はなかなかできないようだ。所詮学校の勉強などは中間的なものなのだろう、と思えてしかたない。
 ところが、一見脳に刷り込まれなかったような中間的なことも、一生懸命にさえやっていれば、学習にしても体験にしても、あたかもサランラップを重ねるがごとく脳に堆積されていくのかもしれない。
 
 仮に、そのようなことが証明されたとしても、そのことが私の好きな「見えない力」というものかどうかはわからない。
 天命鋳師・若林秀真さんは言う。
 「職人さんや父、先祖、みんなが心配してくれている。何かがきっと教えてくれる。それを感じられるよう、毛穴を開けておきたい。」
 何とも素晴らしい言葉ではないか。




  さて、教職生活最後の正月を迎えた今、若者に言っておきたいことがある。
 それは、今まで指導を受けてきた学問や多くの体験から、「自分はどうなりたいのか、何をやりたいのか」を考え、「なりたい自分を本気で探してほしい」ということである。ここからが自主独立、剛健不屈の世界の始まりである。
 そのことを内村鑑三の言葉を借りて言えば「一日は尊い一生である。これを空費してはならない」ということなのだが、楽しく、力まず、なおかつ本気で取り組むことが必要だ。
 
 なりたい自分、理想の自分に向かう手順は以下の通りである。


<振り返り>
 1 これまでの自分を振り返ってみる
 2 自分は何が好きかを考えてみる 
 3 自分は何が得意かを考えてみる
 <目標設定>
 4 これからの目標を立てる
 5 目標に比して今の自分のレベルは何点くらいかを考えてみる
 6 足りない部分を埋めるためには何をしたらよいかを分析してみる
 7 目標に到達するために待ち受ける障害にはどのようなものがあるかを予想してみる
 <実践行動>
 8 常に目標に到達した自分の姿を思い浮かべながら進む
 9 常に目標の微調整をしながら進む


 満足できる行いをするためには、「考える」ことと「無になる」ことを自然に使い分けられるとよい。何も考えずに行動してしまう人、そういう人を世間は無に鉄砲をつけた言葉で表現する。まずは、自分の考えた範囲内で無を目指して挑戦することが大切なのだ。
 挑戦というと何か特別なことをやるように思いがちだが、実はそれほど難しいことではない。上記9項目のどこに位置するかを頭の片隅におき、やる時は無を目指して強い意志で、やるべきことをやっていけばよい。ただそれだけのことだ。
 
 他人を変容させることに躍起になっている教員が言うのもおかしいが、「過去と他人は変えられないが、自分と未来は変えられる」とはよく言ったもので、人は未来を信じて生きていくのが幸せなのだ。いわゆる夢のある人生と言うことである。
 そういうと、「運を天に任せる」と考える人がいるかもしれないが、いいかげんな気持ちでは自らの運を任せることはできないはずだ。そのようなことは「人事尽くして天命を待つ」心境の人が言う言葉である。
 
 多くの人に教えていただいた知識を活かさず、体験さえも活かすことができない者に霊的(ひらめき・スピリチャル)な創造力や決断力など発揮できるわけがない。
 「学」や「験」で得た「霊」を上手に組み合わせることが大切だ。脳の中で「学」「験」「霊」を立体的に組み合わせよう。
 宮大工を思い浮かべてほしい。彼らは平面図を見ながら数百年後の建物のゆがみを推理し、千年を超えてもびくともしない立体的な建物を組み合わせていくのである。
 その感覚が得られれば人としての総合力が膨らむ。総合力が膨らめば、挑戦する気概も強くなる。
 そのようなゾーンこそ、「宇宙的感覚」とか「神の領域」と言われているものなのかもしれない。
 ロンドンオリンピック開催の今年、仲間が一人でも多くそのようなゾーンに入っていけることを願っている。
 
 
 
 今月の結びに、本橋成一、著・写真「生命(いのち)の旋律」(毎日新聞社)から「まえがき」を贈ります。この本の紹介には「生きる知恵が消えてしまわないうちに(坂本龍一)」とあるのも印象的です。
 
     豊かさってなんだろう。
  
     森を拓き、山を壊し、川を堰止め、海を汚し、
     地球の裏側から食物や水を買う。
     この先に何があるのだろう。
 
     人が生きるって、どういうことだろう。
 
     少し目を凝らしてみると、森に山に町に海に、
     いのちをたっぷり持った人たちがいる。
     自然や人や記憶のつながりを大切に、
     一心に生きる人たちがいる。
 
     そういう人に会いに行きたい。
     いのちが響き合う音を、留めておきたい。
 
     新世紀、旅に出た。



 ところで、1月7日から9日まで、私は岩手県の北上にいます。
 昨年インターハイが終了したばかりなのに、関係者は休むことなく5年後の国体に向けて多くの整備を始めているのです。
 もちろん、今回の講習会で私が話す内容や紹介する練習方法はジグソーパズルの1パーツにすぎないと思っています。
 しかし、私の知る北上の方々は「人としての心」が何たるかを知っています。
 北上の方々は多くのパーツを組み合わせ、5年後には「夢が好き、人が好き、自分の生き方が好き」な選手と指導者で溢れる陸上競技界を創り上げることでしょう。
 そのようないのち溢れる素晴らしい陸上競技の町をこの目で見てみたい、思って練習旅を真剣に楽しんできます。
 

 


  
  ・「康駿視点」バックナンバー 
     第1回ー人間関係ー(H23.05.08)
     第2回ー速さと強さー(H23.06.08)
     第3回ー岡島宣八先生逝くー(H23.07.08)
     第4回ーインターハイ序破急ー(H23.08.08)
     第5回ーインターハイそして世界選手権終了ー(H23.09.08)
     第6回ー 氣づき ー(H23.10.08)
     第7回ー 姿勢 ー(H23.11.08)
     第8回ー 箱根駅伝を読む ー(H23.12.08)


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