康駿視点    第10回(2012.2.8.) ー 日誌のすすめ ー      

 
 東洋大学圧勝から、すでに一か月がたつが、皆さんはこの一か月間の行動を振り返ることができますか。もし、できないのなら、今からでよい日誌(日記)を書き始めてみようではありませんか。
 
 この話を書くにあたって、高校時代そして大学時代の自分は何をしていたのかを確認するため、書庫から当時の日誌を探し出し、あらためて見てみた。
 私は練習日誌と称して書いていたつもりだが、今見なおしてみると練習内容だけではないことに驚いた。
 
 少し紹介する。
 まずは高校時代の冬の一日、今から44年前・43年前・42年前の全校マラソンが開催された冬の一日だ。
 
 当時の佐野高校の全校マラソンは16km、マイル表示なら10マイルレースだった。
 結果は、1年生の時が1時間6分1秒で18位。2年生の時が1時間10分48秒で31位。3年の時が1時間5分3秒で7位である。
 私の専門種目は短距離と走幅跳であったので長距離はどちらかというと得意と言えるものではなかった。
 しかし、その日の感想などを見ると長距離にも意欲的に取り組んでいたことがわかる。特に、3年生の時に最もよい記録と順位を出している。当時の大学入試はセンター入試ではなく各大学出題によるもので、私の受験した東京教育大学は3月3日から5日までの3日間だった。と言うことは、2学期終業式前日に行われていた全校マラソン大会は受験勉強のまっただ中だったわけだが、「逃げずに一生懸命に挑戦した。このような結果を残せたことは大きな自信になった」と書いてある。ずいぶんと純粋な言葉である。
 私にとって、たかが全校マラソンだが、されど全校マラソンだったようだ。 
 
 次は、目標を大学日本一として合宿所生活をしていた大学時代、今から40年前の冬の一日はどのような日だったか見てみよう。

 朝7時起床、体重63kg、脈拍48回。曇り空の中散歩。終了後ハムサンドと牛乳の朝食。食欲は普通。
 少し休んでから10時前に出発し大学に向かう。電車の中で新聞を読む。
 授業を聴き、12時から練習。昼休みに金原先生と1対1で練習。
 ウォーミングアップの後、150m×3、100m×3、100m×7、150m×2のイメージスプリントで終了。
 1時30分から遅い昼飯。厚揚げフライ定食とリンゴと牛乳。食欲旺盛。
 午後の授業を1コマ受けてから、合宿所までのんびりと帰る。電車の中では戸川幸夫の高安犬物語を読む。
 合宿所に到着後、年賀状を書く。目標の半分ほど書いたので銭湯に行く。
 買い物をし、一人で夕飯作りをする。昼飯が遅かったので食欲がない。スパゲッティとレモンスライスに蜂蜜をかけたものをコーラで流し込んだ感じ。もう少し栄養や食事の間隔などをを考えるべきだが、今日はこうなった。シンスプリント(注:日誌には「新人病」とある)が出始めたので自己判断しアリナミンを飲む。
 再び年賀状を書いていたら先輩に呼び出される。何か悪いことをしたのかとひやひやしながら行くが、先輩は話し相手がほしかっただけらしく、先輩の部屋でウィスキーをチビチビやりながら雑談していたが、12時に解放され床につく。
 
 ずいぶん情けない練習やら生活をしているようで恥ずかしい。もちろん原本に忠実に読みやすいように書いているが、創作はしていない。
 それにしても、なぜこれほどまでに一日を振り返えることができるかと言うと、一日を48等分したグラフに自分だけがわかる記号で行動内容を書き込み、食事、練習、読書などの内容を詳しく記載しておいたからで、40年前のことも昨日と同じなのだ。日誌をきめ細かく書き続け、読みなおすことで「生活の無駄を知る」「時間の使い方が上手になる」その結果、自己確立が比較的若くしてできたのではないかと思っている。
 私は中学一年の1月1日から現役をやめるまで、上記のような書き方で練習日誌を書いていた。
 昔の日誌を読み返しているうちに、思いもかけない感情が湧いてきた。そんなことも日誌の良いところだ。
 例えば、中学時代の弁当の中身をあらためて知って(当時は牛乳給食で弁当持参であった)あらためて母親の苦労を知ることができたこと。
 高校時代に腰痛で走れなくなった日に岡島先生の親身の励ましがあり、「大事にしろよ」と言われたことなど、である。
 
 教員になってからは授業日誌、部活では部員日誌を書いていた。授業日誌は県教委指導主事時代に役に立ったし、部員日誌などは、もし、これから高校生を指導する機会があれば「最高の宝物」になるに違いない。
 歳をとると「昔のことはよく覚えているが最近のことはすぐ忘れる」と言われるが、私の記憶の良さには裏付けがあることがおわかりいただけたと思う。私にはいつでも確認する資料がある、という根拠があるのだ。ひょっとすると、毎日日誌を書くことの付帯的価値として記憶力が増幅してきたのかもしれない。
 ゆえに、私にとって日誌は有形無形に役に立つものなのである。

 長年の体験から、人は自分を正直にさらけ出す時間を持つことが必要だ、と考えている。
 そのためには自分の思いを正直に書くことが大切だ。書けば書くほど、自分を知ることができ、自分の考えが蒸留され、アルコール度数の高い考えが浮かんだ、と実感している。
 
 誰もが小学生のころの夏休みの宿題で絵日記を書いたことがあると思う。あれは提出するものであるから結構神経を使っており、自分をさらけ出すことはあまりなかったはずだ。
 しかし、自分をさらけ出すためには、人に見せない、見られない日誌こそ、人生を豊かに膨らませるために最適なものと確信している。
 
 もしも、このエッセイを読んで、「それではイッチョウ書いてみようか」などと思ったなら、難しく考えないで、明日から始めたらよい。明日からと言うには意味がある。それは「どのような内容にするか、書き方をイメージし、それにふさわしいノートを買ったりする」という準備が必要だからである。つまり、自分なりにけじめをつける、かっこうをつける、というわけだ。実は、そういうこだわりも長続の秘訣と考えてよいのである。
 大きめの手帳を利用するのが一般的だが、各自のイメージに合わせた方がよい。それでも、書き始めてから書き方を変えたいと思う時が必ずやってくる。そんな時に対応できるような種類のものを選んでおいた方が無難だ。私の現役時代は大学ノートであったが、今はオリジナル手帳と言うべきものにしている。これもある種のこだわりなのだ。
 このエッセイを読んで日誌を書き始めようとしている人の多くは「練習日誌」となるであろうが、それだけでは味気ないし、後々アスリート以外の方のアドバイスにならない。そこで一例をあげるなら、その日に起きた社会の出来事や身の回りの出来事を一つ取り出し感想を書く「出来事日誌」、ちょっと高尚に「俳句日誌」や「新聞コラム一口感想日誌」などもよいものだ。食べることが好きな人や体調に気を使いたい人は「食事日誌」なども悪くない。
 余談だが、昨年の国体での出来事を伝えておく。千田俊一先生とサブトラックで陸上談義をしていた。と、ある話題になった時、偶然にも5年前の「時折の一筆認め」を持参していたことを思い出した。そこには、A大学の某指導者がB大学への感想を述べたことが箇条書きで綴られていたのであるが、二人とも某指導者の「先見の目」に驚かずにはいられなかった。忘れていた大切なこと「速くなるための知恵」がそこにあったのである。日誌というものはそのようなことも教えてくれる。
 
 新渡戸稲造の著した「一日一言」という本があります。その本の序は次のように始まります。
 その日その日の教訓なる格言を聞いて、一日の精神的食糧に供することは誰人にも望ましき事であって、外国においては種々な形において行われている。わが国においても、近来この目的をもって世に公にされた書物は少なくない。我輩も数年以前より、自分の助けとなった格言を集めて世にわかちたいと望んでいたが、暇なきため実行しかねていた。しかるに、この秋、負傷して某所に湯治の際、思わずもある青年の痛ましい経験を聞いて、急に本書を綴ることを決心した。(以下略)
 
 この本を読んでから、私も「一日一筆」なるものを、いつの日か実現しようと思っていたが、きっかけは意外と早く訪れた。4月から新たな年、エンドレスで回るような現役時代とは違う、想像のつかない年が始まることに気づいたのである。そこで、1月1日から準備段階、ウォーミングアップとして始めることにした。なるべく少ない文字数で、手帳にあらかじめ記されている枠内に収まるように書くことに決めた。したがって、他著や新聞等からの「抜書き」(感想)、「疑問感・抵抗感」を持ったこと(反論)、「同調感・賛同感」を持ったこと(肯定論)などを、簡潔にわかりやすくまとめるというものだ。今のところ毎日は書いていないが、4月からも無理はできないであろう。1月1日から1か月間で20日書いた。ウォーミングアップとしてはなかなかのものであろう。
 毎日タイトルをつけているのでタイトルだけを紹介しておく。
  1/ 1  「義」「勇」と「礼」
  1/ 2  士魂と商魂は志が異なる
  1/ 3  人間関係と組織
  1/ 4  箱根駅伝とグライダーの関係
  1/ 5  養義勇志
  T/ 6  強化コーチと紙飛行機
  1/ 7  マスコミ関係者へ嫌悪感を抱くとき
  1/ 8  北上にて
  1/11  運の考え方 
  1/13  生き様は才能
  1/14  「こだわり」ということ
  1/17  旧制中学の心を忘れた元旧制中学
  1/18  学問(「空海の風景」より)
  1/20  健康とは
  1/21  「若林秀真」氏の言葉
  1/22  ひらめき
  1/23  クラブチーム
  1/24  変容
  1/28  朝寝、朝酒、朝湯が実は大好き
  1/29  大難、小難
 と言ったところであるが、このタイトルでJUVYの勉強会を開いたらおもしろいのではないかと、書きながらふと思った。
 
 現役時代、私は日誌を書くのに毎日30分〜1時間かけていた。毎日大学ノート1ページびっしり、総合日誌のごとく書いていたが、このような日誌を毎日書き続けるには性格も影響しているような気がする。したがって、一日くらい忘れても気にしないほうがよいようだ。くどいようだが、嘘は書かないこと、正直に自分をさらけ出さなければ日誌にならない。
 実際、書いている時は、こんなことが何十年も後に役立つとは思ってもいなかった。もちろん他人に見られては困ることも書いてあるが、まだ処分する気はない。

 福岡は直方市に「脳力アルファ」なる学習塾がある。そこの塾長である吉岡社長によると「メモを取るのはよくありません。結局忘れるのです。メモを取らずに覚えている力をつけることで『脳力』は向上するのです。メモはあまり信用しないほうが良いかもしれません。備忘録程度で十分と思います」ということだ。
 そう言えば、宮大工をはじめとして職人さんはメモなどとるなどと言ったことを聞いたこともがない。何しろ平面図から立体物を作ってしまうわけだから、メモなどで確認しているわけにはいかないのかもしれない。おそらく、完成した建築物はいつでも自由自在に思い浮かべる術を身につけているのだろう。そのような感性はメモを見ながら作業している人にわかるはずがない。私でさえ、練習中に次々とやることが思い浮かぶ。若林さんはそのような現象を「上(神)からの指示」と言うが、よくわかる。
 これからは、「上からの指示」ということを自覚し、メモでなく日誌として書き続けたい。
 


 新コースで開催された大澤駅伝が終わりました。今年は佐野高校と鹿沼東高校の合同チームを作り「JUVY TC」として出場しました。今年から県高校駅伝はこのコースで開催されます。来年から2年間は関東高校駅伝も開催予定です。多くの先輩の汗で大澤駅伝は62回を数えました。この伝統がなければ、県駅伝はもちろん関東高校駅伝を開催するなどということは「夢のまた夢」だったと思います。本当にありがたいことです。感謝申し上げ今月のエッセイを閉じます。
 

 
 

 


  
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