時々康駿    第18回(2012.11.23.)       

 これまでに色々なスプリントトレーニング法を行ってきた。その根底、大げさに言えばスプリント思想や理念、にはどのようなものが流れていたのかを振り返っている。
すると、今の考えからすれば真逆のことをしていた時代があることを否定できない。


 宗教はアヘンである!とマルクスは言った。
ただただ念仏さえ唱えていれば極楽に行ける、的な発想がその真意である(と考える)。
誤ったやり方のトレーニングを続ける。指導者が著名であればあるほど、誤ったトレーニングとは気づかずに、選手は恍惚感さえ味わいながら練習を続ける。そう、トレーニングは教え方次第でまさにアヘンに変わることがあり得るのだ。


 真理の追求は難しい。しかし、すごくやりがいのあることなのだ。ある意味、真理の証明のために科学というものが存在する、と言ってもかまわない、とさえ思う。その発想からすれば、研究者は血眼(ちまなこ)になって研究に没頭してもらわなければこまるし、研究の結果はわかりやすく実践者に伝える義務もあるし、実践者はそれを真理と認めたならば啓発にエネルギーを注がなければならない。


 では真理とは何か?
真理とは宇宙レベルで時空を超えて変わらないものである。
例えば人は必ず死ぬ。しかし、それがいつ訪れるかはわからない。これが真理である。
つまり、ある物事に真理が無限にあってはならないのである。


 人が速く走るための技術は感覚では解決できない。コツの伝承としては感覚的なことが必要だが、感覚は人の数だけ存在する。ゆえに、感覚は永遠に真理には到達できない。それは真理である。


 還暦を過ぎた私も人並みから随分遅れて真理の追求に燃え始めている。
 古田武彦著の「わたしひとりの親鸞」に次のような一節がある。
「『標準』や『定説』なるものは、皆、わたしたち人間が生きてゆくためにかりに定めたもの、ほんの『便法』にすぎません。別に大宇宙の空間にそれらが書いてあるわけではありません。この大宇宙の一隅に生まれた人間たちが、どう生きていったらいいのか、本来一切不明なのです。」
 また、「わたしが本当にそうだ、と思えることだけを、そうだと思いわたし自身にそうだと思えないことは、誰が何と言おうとも、そうだとは思わない」ともある。
そうして、キリストについて「純粋に生きることを求め、迫害者たちへの愛を説き、権力の走狗となることをキッパリ拒絶しとおしたために、無法にも民衆の面前で処刑された青年。このような生き方がこの現実の大地でおこなわれたこと、それにまさる奇跡。それがこの世にあるでしょうか」と述べている。
この本は25年以上前に読んだものだが、今月初旬に思うことあって再読し見つけた節である。


 その本に激励された。
「昨日の自分より速く走れないか?」「100分の1秒の世界に足を踏み入れてみたい」といった非日常的なテーマに向かう純粋な若者に、指導者が新たな情報を得て、これまでとは真逆な発想で指導実践をしていくためには、それ相応の覚悟が必要である。ここで言う覚悟とは、「清水の舞台から飛び降りる」などといった単なる捨て身の度胸などではなく、ベースには知性や感性に基づく理解力や分析力を駆使した上での覚悟ということである。
そのような覚悟がフツフツと湧き出ている。
 同時進行で、真理ではないかと思われるスプリント技術の獲得のためのトレーニングが具体的に見えてきた。もちろんこれまでの方法と大きな違いは見えないが、それは見た目だけのこと。中身は確実に進化していると自負している。
残された指導者人生でこの方法を実践し続ける覚悟がもきた、ということだ。
11月に入り、まずは北上で紹介した。先週は一週間かけてJUVY jr.で確認した。暮れには、200m20秒台、400m46秒前半、110mH13秒中盤、走幅跳8m目前のリオを目指す学生選手がこぞって佐野に集結し、この方法で合宿を行う。練習に必要な器具も考案、設計しすでに発注済みである。


 残された人生はこれまでやれなかったことをしたい、と思っていた。その中に、真理の追求が加わった。新しい年を迎える直前、間に合って良かったという心境である。
真理を判らずして善悪の判断はできない。
真理判らずして人の長短を論ずることはできない。
選手の欠点をしたり顔で話す指導者。真理を追求するどころか、指導理念もまとめられず、直接方法論に入り込むような指導者。そのような方がリーダーになることの怖さを知り始めた。


 最近「正しい感覚の技術」という難しい表現を見た。
私には全くわからん日本語である。
そのような曖昧なものに対抗するわけではないが、少なくとも私は、自分で信じられること、自分で責任をもてることが真理というものに包まれながら過ごしていきたい。








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