時々康駿    第6回(2012.6.6.)       

 異なる分野のものを観てみたい。それはつらいことであることは承知の上で、だ。

 6月2日夜、唐沢山神社山頂近くにある神楽殿で、東日本大震災復興支援「早池峰大償神楽(*1)『鎮魂と祈りの舞』」があると知った2月末、私はすぐに旧知のW氏にチケットを依頼した。(*1はやちねおおつぐないかぐら)
 当日は朝から前橋に行っていたが、急ぎ戻り四時過ぎに会場に到着した。
 早池峰神楽は岩手県花巻に伝承されている神楽で早池峰神社奉納の岳神楽と大償神社奉納の大償神楽の総称で、ユネスコ無形文化遺産に登録された日本を代表する神楽である、という。

 まずは神社にご参拝し、受付を済ます。そうして最初に会った人が何とW氏である。「今日はすごいものがみられますよ」とW氏。
 持参の「神の水」(*2)を飲んでいると定刻の5時。「鳥舞」(*3)という神楽から始まった。(*2日本酒)(*3とりまい)
 そうして15分後、驚きが突き抜けた。と言っても、この驚きは会場の中で私一人が感じた驚きであったのだが。
 「三番曳」(*4)という題目のこの神楽はテンポが速く、スキップ的な動きが多く取り入れられている。(*4さんばそう)
 これは「さんばそう」というより「サンバ走」だ。驚いたのはスキップするとき、空中にある足の踝とスキップする脚の膝が着いていることだった。驚いたのはそれだけではない。スキップしながら空中脚を前後にスライドさせ始めたではないか。
 私が推奨するスプリントドリルは何のことはない、今から500年以上も前から岩手県で生まれ山伏を中心に行われてきたのだ。私のドリルなど神(宇宙)からすればオリジナルなどではなかった、と言うことなのだ。
 三番目の題目「山の神舞」は一人で45分舞続ける。しかも、重そうな装束とお面を着けてだ。修行もすさまじいものに違いない。この舞は神が乗り移らなければできないだろう。明治大学応援団の「拍手の舞(たしか嵐だったと思う」を思い出す。
 一休みして「笹分」(*5)が始まるが、これは北上地区に伝承されている「鬼剣舞」(*6)そっくりな舞だ。(*5ささわけ)(*6おにけんばい)どちらが先に生まれたかは「三番曳」のドリルの発想と同じである。

 そうこうしているうちに、公演終了。
 W氏のいう「すごいもの」は何だったのか、帰途家人の運転する車の中で考えた。残念ながらそれは上述のものではなかった。そのような思いは自惚れというものだ。
 「すごいもの」それは「W氏の下働き」であった。日本を代表する芸術家のW氏がバケツに水を汲み暗闇の中人知れず何度も舞台裏に水を運ぶ姿こそ「すばらしいもの」であった。

 神楽の動きは管理、公演に関わる人も管理、世の中は管理し管理されることによって成り立って行くのは当然のことだ。これを嫌えば矛盾の連続が襲い続ける。
 問題は管理される中にも発想の自由を塞いでしまうことだ。W氏は運営委員という管理下の中で自由な思いで、別の次元で神楽を楽しんでいたと思う。
 「全てを管理しようとすると、人間にとって最も大切な感情が薄れ、感性が生まれない」ということに気付くことができた一日であった。
 指導者は(学校の先生という狭義の人種ではない)決まりごとを守ることと管理されることはイコールではないことを若者に伝えなければならない。

 次週は休刊です。大阪〜和歌山〜前橋〜北上と寅となり旅が続きます。



「時々康駿」バックナンバー
     第1回(H24.05.01)
     第2回(H24.05.08)
     第3回(H24.05.13)
     第4回(H24.05.24)
     第5回(H24.05.31)


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